合気道の当身は、ボクシングのジャブのようなものです。
合気道の技の中で使われる当身は、相手の動きをけん制したり、急所を防御しようとする動きを誘い相手の体勢を崩すことを目的に用いられます。
そもそも「当身」というものは、古武術や武道において急所を「突く、殴る、打つ、蹴る、当てる」といった技の総称と言えます。
合気道以外の武道においては、当身を使うことは相手の急所を狙い重傷を負わせることを目的にしています。
合気道での当身はどういうもの?
合気道の当身については、冒頭にもあげたように他の武道とは違い相手に重傷を負わせることを目的にしたものではなく、あくまで相手への牽制あるいは相手の体勢を崩し双方にとって最小限のダメージで相手を制圧する効果を上げるために使われていると言えます。
これは、合気道の成り立ちの概念である「合い和す」とするものが具現化されているとも言えます。
合気道においては、柔道のような試合はなく、演武という形態をとりますが当身を禁じられているわけではなく、開祖植芝盛平翁も「当身を禁じれば技が変質してしまう」と語っていたように当身は重要であることは間違いありません。
合気道の「入り身」「転換」と言った体さばきも本来は相手に当身を入れるために自分の相手との最適な位置をいかに確保するかというもので、その意味からすると合気道の技の7分は当身技で構成されているとも言われるほど、当身の存在は大きいのです。
合気道で当身を使う技は?
合気道の技の中で当身を使う技を考えてみます。
私の稽古していた養神館合気道の技でいくつかあげてみます。
基本技とされるものでも、「片手持ち四方投げ」「片手持ち入り身投げ」「片手持ち2か条」等々があげられ、応用技の中にも当身を技のきっかけとしたものも数多くあります。
いずれも技を仕掛けようとする際に、相手が防御せざるおえないように牽制のために当身を入れ、それによって体制を崩させ技を進行させ抑制するというものです。
あくまで当身で相手に決定打を与えようとするものではなく、技の仕掛けのためのものです。
合気道において基本技と応用技の型の稽古の反復により、相手との間合いや呼吸の感じ方に加え、適切な当身を入れるタイミングと体勢を体得していきます。
実践で技を使う必要に迫られた際には、当身が重要な意味を持ちます。
実戦では、当身だけで技が完結してしまうこともありえます。
合気道養神館塩田剛三館長も総合演武会の模範演武解説で、実践では「当身7分投げ3分」という言葉で表現されていましたが、相手の動きを瞬間で制圧するためには当身はそれほど重要なものです。
合気道の当身は技の中の要です。
これほど当身が重要ですと書いてきましたが、合気道の稽古の中で当身の重要性は説明を受けますが、当身のみの稽古をすることは少ないと思います。
合気道の当身は空手や柔道のそれとは違い、相手の牽制や大勢の崩しのためのものであることから技の流れのきっかけにすぎません。
合気道の当身の持つ意味を広く考えれば、合気道においては自分の体軸を崩さず、相手の体軸を崩すために当身を使用し技を進行させ抑制することからすれば、一つの技全体で一つの当身といっても良いのかもしれません。
実戦に近い稽古の自由技では、例えば突きで攻めると申し合わせた状態での対応技を連続で稽古する場合、相手の突きの強さによっては当身を入れただけで相手が倒れてしまうこともあり、技としてはそこで完結することもあります。
技をかける際には当身は状況に応じて多用されることからも技の要とも言えます。